第一話  蘇州夜曲

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 恒星氏は今のところ、本拠地のカナダに居る。オフィスの秘書室長からの情報によれば、五月の末まで来日の予定はないらしい。(勿論、確定では無い)  となれば、今はまだ四月も半ばだ。  余裕で厳グループの幹部を務める従兄弟やら叔父やらを、しっかりと探れそうだ。  日本に常駐している幹部は三人、それぞれが、厳家の一族である。しかも皆、それぞれの会社で支社長を務めている。  まず叔父の相良(さがら)博之(ひろゆき)。  六十代後半の彼は、恒星氏の叔母と結婚して一族に加わった日本人だ。  関西から南の取り引きをほぼ担当して居るが、恒星氏の受けは今ひとつ良くない。  次は従兄の(げん)曹鳴(そうめい)。恒星氏の父親の、年の離れた姉が産んだ子供だ。  五十代半ばの紳士の彼は、普段は東京オフィスを取り仕切っている。  温厚だが。可もなく、不可もない仕事振り。  あと一人は恒星氏の妹・麗佳(れいか)の夫の谷崎(たにざき)隼人(はやと)。彼は恒星氏が学んだハーバード大学時代からの親友で、恒星氏と同年だ。  関東から北の全域をカバーしている。恒星氏の信頼が一番あつい人物と言えるだろう。  そしてあと一人。  オフィスに時々現れる、従弟の(げん)翔燕(しょうえん)。  都内で大学病院の勤務医をして居る彼は、間もなく恒星氏の世話で、都内のそれなりに大きな総合病院の娘婿に迎えられる運びになっている。  なかなかの美男子で、恒星氏の従兄弟の中では出来がいい方だと評判の男だ。  日本の厳家の中で、大きな権を握っているのはこの四人だ。  運のよい事に。大阪のオフィスには来週から、同じ捜査班のジュリエット(コードネーム)が潜入する予定だ。  同じく、秘書として採用される予定。  おぞましい事に、中国マフィアの商売は何時も多岐に及ぶ。  麻薬密売から武器の密輸入。人身売買に土地の買い占め、果ては臓器の売買にも手を伸ばしてくる。  厳グループは巨大だ。  多くの被害者を出さない為にも、入り込んだ中国マフィアの手先を切り取る為の、早めの切開手術が望ましい。
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