第一話  蘇州夜曲

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 2・  五月三日の憲法記念日。  毎月三日は、特殊対策班の顔合わせの日だ。  お仕事の都合上、警視庁には集まれないから致し方なく作った隠れ家が、JR東海の高架下にある焼き鳥屋の奥の隠し部屋。  特殊対策班の六人が座るのがやっとの狭いその部屋で、それは毎月一回行われる決りだった。何となくだが。何処かの時代劇で、隠密が集まって鍋をつついているシーンを彷彿とさせる。  この焼き鳥屋のオヤジも、もと捜査官。  退職しても繋がりは解けないと、自分の将来を見る様な気になる。  この日に集まった目的は、当然のことながら中国マフィアの動向だ。もっともその日は、特殊対策班のメンバーはまだ四人しか集まっていなかった。  「ねぇ、ボスは如何したのよ」、見るからに男の為の女神。美味しそうな女の代表のジュリエットが、尖った声を出した。  この女は蕩ける様な肢体と、目を見張るほどの美貌を誇っている。  そして、ボスが遅れるのはいつもの事でもある。  現場ではほとんど役に立たない親爺だが、上層部の受けがいい。  然も経理をたぶらかして、必要経費を分捕る技はかなりのものだ。  あと一人はサーバー対策課から来た情報収集専門のミカエル(コードネーム)で、この日はなんと「インフルエンザで寝込んでいて来れない」と、連絡を受けとっていた。  この日の話題は、先週の事件に集中した。  遂に香港マフィアが動きを見せたのは、四月も押し詰まったゴールデンウイークが始まる間際の事だった。  東北の山奥にある、過疎に為った豪雪地帯の土地を買い漁ったのだ。  絡んだのは、厳グループの不動産部門だ。  麗佳の夫・谷崎隼人が社長を務める東北不動産株式会社が窓口になり、中国マフィアの下請けの暴力団、極東連合会の会長の島崎が買ったのである。  「そう来たかッ、て感じだろう」  極東連合会に張り付いていた、ロビンフッド(コードネーム)が呟いた。  長身のイケメン。ホストとして潜入している礼儀正しい男だ。今は極東連合会の島崎の女に取り入って、情報を集めている。
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