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「アジトを作るとは思ったが、なかなか鋭い目の付け所だな。冬にでもなれば、誰も近づけねぇぜ」
このところ、銃の密売ルートの摘発が上手くいっていないパパゲーノ(コードネーム)が、思わず唸った。
こいつは強面の毛むくじゃら。ボクサー崩れで通っている名のある捜査員。
極道どもはこの男を、任侠の鏡だと思っている。
「おい、セイラにもっと深い処まで潜って貰うか」、妖しいことを口走ったロビンに、パパが反論した。
「いや、無理だな。こいつはジュリエットと違ってハードなお仕事専門だ。色仕掛を遣らせるなんざぁ無理ってもんよ。色気に欠けて男が落ちねぇさ」
「違いないな。コイツの方が極東連合会に潜入なんて言う荒業は、僕なんかよりずっと向いてるからな」、パパの反論をロビンがすんなりと受け入れた。
「チョット!あんた達。アタシのどこが色気に欠けるってのよ」、思わず気色ばんだ。
黙って聞いてれば、言いたい放題だ。
彼らがそんなことを言う理由は、三年前の広域暴力団への潜入の時に背中に入れた刺青の所為だろうとは、見当がつく。
刺青に挑戦したあの当時。
二十八歳の私は、極道の中枢に潜入捜査をかますのを前にして、幼い頃から温めていたその計画を実行に移す為の金と時間とチャンスを、まんまと手に入れたのだ。
お仕事の為の手術代として、彫り師の彫り辰に払った金は経費で落として貰った。
手術の後の養生期間として、高級ホテルでの滞在費用も有給休暇扱いにして貰うと言う破格の待遇。
まさにそれは、神の恩寵だと思った。
刺青を入れた切っ掛けは、私の背中に生まれた時からある青あざのせい。
それは幼い私には、のたくっている蛇のように見えたものだ。
もしも実家が、龍神を祀る神社の神主じゃなければ、私は奇形児として忌み嫌われたかも知れない。
だが実家の稼業のおかげで、私は長野の山間の小さな村で、生き神様のように崇められて育った。『竜神様の巫女姫』、そう呼ばれていたワタシ。
それでも大きくなるに従って、私にはそれが竜の形には見えず、どこかアオダイショウ(蛇の一種)に似たものに見えてきた。
到底、自慢にはならない。
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