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一歩でも村を出れば、やはりそれは奇異な代物に過ず、{可哀想にねぇ}、と人が言う。
劣等感を持っていた少女はある日、「痣の上から竜の刺青をして、青あざをもっと完璧な竜に変身させる」、と言う名案を思い付いたのだ。
それは小学校五年生の夏。
夏休みにテレビの映画劇場で、ヤクザ映画の中に登場した男の背中を覆う、それは美しい青い竜の刺青を見た。それ以来、チャンスと金に恵まれる日を待っていた私。
このお仕事に着いてから、その筋の極道どもの噂で、彫り物師の彫り辰を知った。
その時の任務が、広域暴力団への潜入。
「背中に彫り物を入れて、潜入したい」、私の言葉にボスは、そうとう驚いた様だったが説得した。
捜査が難航して、決め手が欲しい時だったから、結果を出すと約束して落したワタシの勝ちだ。
それなら仕事の延長だから、お金を出してくれると言う。(ありがたやー)
チャンスとばかりに、彫り辰に初めて背中の痣を見せに飛んで行った。
彫り辰はもう六十代のオッサンだったが、息をのんで私の背中の青あざに触った。
「項羽の竜だ」
訳の分からないことを口走ると、「本当に遣ってもいいのか」、と念を押した。
彫り辰は、昔ながらの刺青を彫る。
腕は超一流だが、頑固で偏屈なオヤジだ。
「俺はお前ぇの背中には、項羽の竜しか彫らねぇ。それで良いならやってやる」
拘るから、<項羽の竜>とは何か聞いてみた。
如何やら昔の中国の男で、龍神を祀って大金持ちになった項羽と言う男がいたらしい。その子孫が家紋にしていた青龍が、<項羽の竜>と呼ばれていると教えてもらった。
手に命の玉を掴み、身をくねらせて天に見かって咆哮する、そんな竜の絵らしい。
「遣ってよ!何でもいいからさぁ」
言ったことを、その後の五日間で後悔した。痛いなんてもんじゃ無い!死ぬかと思った。と言う訳で、私の背中には青い竜が命の玉を手に、天に向かって咆哮している。
今や私の背中のアオダイショウは、完璧な竜に変身した。
それをさっきから、ロビンとパパゲーノが揶揄っているのだ。
「フン!何とでも言うがいい」
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