第一話  蘇州夜曲

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 然し、今回のような素人の役で潜入するには邪魔だ。  今は肌の露出をキッチリとさけている。  まぁ、私の背中の事は此のくらいにして、今の問題は中国マフィアに土地を売ったのが厳グループの傘下会社だと言う事だ。  「やっぱり、谷崎隼人を調べなきゃだわ」  『イイ男』が好きなジュリエットが、乗り気になっている。  「どうやって近づく気だ」  遅れて来たくせに、ボスがいきなり話に参加した。  「セイラ、月末に来日予定の厳恒星の歓迎パーティーが、東京オフィスで開かれるんじゃなかったかしら」  ウインクが不気味だ。  「私の招待状、何とか手に入れてよ」 (でもこいつは、大阪の支社の秘書だったはずだ。面が割れてるだろうが!)  「私ったら、三日と経たず首になっちゃったのよ。大事なデータごと、端末を壊しちゃってさぁ」  そうなのだ!ジュリエットには、どんなに頑固な機械も、触っただけで見事に壊すという特技がある。  「やってみるわ」、渋々請け合った。  取り敢えず、その日は散会。  ゴールデンウイークが終わって出社した私を待っていたのは、昨日になって急に来日したという厳恒星の罵声だった。  轟く様な大声で、役員室で怒鳴っている。  然も、北京語で!  次々に出社してきた秘書室のメンバーが、顔を見合わせて首を振る。  「山田君、悪いが役員室にお茶を運んでくれ」、秘書室長の命令が下った。  私は今回は、東京オフィスの契約書に山田(やまだ)恵子(けいこ)とサインした。だから今は山田恵子と呼ばれている。免許所も保険証もその名前だから、信用度は高い。  履歴書には真実も書く。  先ずは血液型、(嘘をつくと健康診断でバレる)。それから携帯番号と身長と顔写真。  それ以外は作文だ。組対五課が用意してくれた経歴や住所、自分で作成した趣味と特技を書き込んである。  語学力のコーナーには、とりあえず英語と北京語を書いておいた。(他にも話せるが、それ以上書く必要はない)
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