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第一幕 女怪盗
雨がひどい。
地面がぬかるんでいるし、せっかくの短刀もだいぶ刃が傷んでいるから、メンテンスが必要だ。そういうタイミングで嫌な仕事は降ってくる。こっちは調子が悪いというのに。
黒子は非常に苛ついていた。
また駆り出されたからだ。
少しは自分たちの身体を労わってほしい。昨日の夜中に自宅へ帰って、やっと眠れたと思ったら、朝一番のおはようコール。彼女だったとしても怒るのに、上司の厭味ったらしい声が耳に響いて、思わず受話器を叩き潰してしまった。まあ、いい。金は上が払っている。
黒子は仕事場まで歩いていく。強靭な肉体は常に甘えることを許さない。止まったらそこでくたばるだけだ。
長く、曲がりくねった坂道の奥に、黒子の棲む根城はあった。
ここは激しい丘陵地帯で、へばりつくように家々が建っている。組織本部は丘の一番上。階段を使って上り、さらに歩いて、何段目か分からないほどに疲れ果てながら、最後の階段を上り切ると目的地である。通常の体力ならば本部にたどり着く前に頭が死んで亡骸と化すところを、黒子はらくらくと進んだ。
「お、リーダー」
蘭二が家から出てきた。派手な色の目は、サングラスで隠れている。蘭二は無駄に体格がいい美丈夫で、黒子は彼を見るたびに「身長分けろ」と文句を言う。そんな間柄だ。
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