眠り姫

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 L字型に曲がっている廊下を突き当りまでずんずんと歩いて、再びカードキーのついた扉の前にきた。さっきと同じようにカードをかざし、パスワードを入力すると、 『右手中指を機器の奥までしっかりとのせてください』 という電子音的なアナウンスが流れだす。アナウンス通り、カードキーのすぐ右手にある指静脈認証の機器に右手中指を載せる。 『認証いたしました』  正門を抜けてから仕事場であるこの部屋に入るまでに既に十分弱の時間がたっていた。  部屋は長方形の形をした十畳程度の大きさで、入ってすぐに個人のロッカーが三つ並んでおかれており、その横に小さな冷蔵庫、割りばしやスプーン、インスタントコーヒーの入ったこれまた小さな棚と並び、その棚の上には電気ポットが鎮座している。中央部分にはデスクが三つ並んで置かれていて、そのデスク一つ一つにこれまたディスプレイが三つ着いたパソコンが置かれていた。窓はロッカーの反対側の壁際にあるが、開けることができないようになっていて、もっぱら日差しを入れるためだけに存在している。  自分の名札がつけられたロッカーを開けて白衣を取り出し、かわりにかばんをロッカーに置く。上着をハンガーにかけ、ロッカーを閉めたタイミングで後ろから大きな欠伸が聞えてきた。 「相変わらずお前は来るのが早いよなー」  デスクの隣で複数の椅子を並べ、ベッド代わりに使用していた加藤さんが声を上げる。 「おはようございます」 「はよう、交代までまだ一時間もあるじゃん」  腕時計で時刻を確認しゆらゆらと起き上がってくる。 「瀬野、コーヒー頂戴」 「どうぞ」  コンビニの袋から缶コーヒーを取り出し、差し出す。 「さんきゅ」  加藤さんはカシュッと小気味いい音を鳴らしてプルタブを開けると、一気に中身をあおる。 「よしっ、少し目ぇ覚めたわ。煙草いくぞ」  加藤さんは空になった缶を持って立ち上がると、こっちの返事を待つよりも早く廊下に出ていってしまう。 「瀬古ー、はやくしろー」 「ちょっと待ってくださいよ」  慌ててコンビニの袋から自分の分の缶コーヒーを取り、白衣のポケットに押し込み、残りをデスクの上に放り投げ、加藤さんの後を追った。
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