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「ほんと喫煙者には厳しい世の中になったよなぁ」
加藤さんはそう言いながら白衣のポケットからメビウスを取り出し、慣れた手つきで火をつける。
「そうですか?」
そんな相槌を打ちながら、僕もウィンストンに火をつけ、一口煙を肺に入れ、ゆっくりと吐き出す。
「そうに決まってるだろ、昔は何処のお店でも煙草が吸えたのに今じゃ殆どが禁煙だ。あの監視室だって前は吸えてたのによ」
「パソコンとかが置いてあるところで煙草吸うのは良くないんじゃ……」
「そりゃそうだけどよ、煙草の煙くらいでどうにかなるほど今のパソコンの性能は酷かないっての。そんなことより俺が言いたいのはよ……」
前置きから加藤さんは煙草を一気に吸うと、煙と共に空に向かって声を吐き出した。
「どうして喫煙所が屋上だけになったんだよ! しかも屋上いくのに階段しかないのはなんでだよぉ!」
怒りの言葉と共に青い空に立ち上った白い煙は、辺りをゆらゆらと旋回したのち、静かに消えていく。近くに他の人がいなくてよかったと心底思う。あからさまに変人扱いされるに違いないし、上の人がいようものならその場で怒られること請負だ。
「まぁ、確かに屋上にしか喫煙所がないのは喫煙者からしたら不便ですよね」
これ以上騒がれるとメンドクサイので、同調して気持ちを宥めさせるように努める。ぼくとしては屋上に喫煙所があるのはありがたいと思っている。室内に籠りきりになってしまう関係上、外の空気を吸えるという意味で非常に嬉しい。
「でも、仕事的に運動不足になりやすいじゃないですか、それを解消する為に運動できてるって思えば我慢できなくもないじゃないですかね」
「たかだか階段の上り下りをしただけで運動不足が解消されるか?」
「でも先輩どうせ最低でも二時間に一回は吸いに行ってますよね?」
「……まぁ」
「十二時間勤務だから最低でも六回はここにきてるって考えたらそこそこの運動になってると思いますけど」
「まったく、お前も可愛げが無くなったよ」
加藤さんは煙草の火種を消して灰皿に捨てると、両の手を上げ降参の意を示した。
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