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172回目。 人々はもう、魔王という存在を忘れている。それは確かに我が蒔いた種でもあるが、何故なら人々の中には“魔王と言われるような者達が居る”からだ。そういった人間達は他にも、悪魔、鬼神とも呼ばれたりする。文明の発達に比例し、瘴気も我ながら驚く効果を発揮するようになった。 あれは確か69回目辺りの事だ。人間の戦争の為に我が利用されるなど面倒だと、ひざまづいていた男に“瘴気を注いだ果実”をやった。去っていったその男がどうなったかは分からない。しかしそれからというもの、度々その男のように我を訪ねてくる者が現れ始めた。そんな話を嗅ぎ付けてか勇ましい者も来るようになったが、そんな人間達を見る度、その人間達の末路が気になり始めた。何度目かの転生を経てから、魔王は久し振りに人間の街へと足を向かせた。 魔王は見下ろしていた。兵隊の中に紛れる“人間ではないもの”を。その魔獣は鎧を着込み、人間と共に、敵国の兵隊を蹴散らしていた。やがて敵国の兵隊は逃げ帰り、その国はまた少し領土を広げた。満足げに帰ってきた兵隊が、魔王を通り過ぎていく。魔王は眺めていた。人間がそのまま大きく、禍々しくなったような姿の魔獣を。戦争の為に、人間は人間である事すら捨てる。いやもしかしたら、あれが人間の“本当の姿”なのかも知れない。魔獣がふと、魔王に振り返る。すると何かを感じたのか、途端に魔獣はひざまづいた。人間達がそんな構図に何事かと目を向けていく。 「邪神様、決心がつかれましたか」 「まさか、お前だったのか。だがその気はないと言っただろう。我は末路を観に来ただけだ」 「隊長?まさか・・・その人」 「あぁ、この方が、魔獣という姿をお与え下さった、邪神様だ」 人間達はどよめいていた。しかし魔獣の姿をした隊長とやらのその姿勢に、人間達の中にも隊長に続く者さえ現れた。 「邪神様、お願いします。あと100個、“魔の実”をお与え下さい」 「人間として、人間を殺すのが人間だろ?魔獣である必要はない」 「あの時は力をお与え下さったではないですか」
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