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「あまりにもしつこかったからに過ぎない」 「今夜も洞窟に参ります」 「何度来られても気は変わらない」 周りからは魔人と呼ばれているその隊長、グランク。魔獣となった人間、単純な考え方で自然とそう呼ばれるようになった。しかしそれ以前に隊長として勇猛、残虐で名高く、隊長の中でも人望の厚さでは誰もが認めるところだ。そんな彼は“洞窟に居る神”という話を聞きつけ、更なる力を求めに魔王の下へとやってきた。一旦グランクから姿を消したものの、魔王は城に帰っていくグランク一行を人々に紛れて眺めていた。彼の特徴は正に“しつこさ”。力の為に、人間をもっと殺す為に“邪神”に通う。しかしそれが、彼にとっての最大の武器とも言える。 “あの女”の事があってから、魔王は洞窟を出ていなかった。やった事と言えば訪ねてきた人間に“瘴気を与えた”事だけ。なのに勇ましい者は現れた。必ず引き寄せ合う存在だから、というだけではどうにも納得出来ないほど、勇ましい者はいつも現れる。勇ましい者によっては、勇ましいというだけあって「ずっと洞窟に居る」と言えば魔王を殺さずに去っていく者も居た。しかし160回目辺りの頃から、答えが1つ出たのだ。自分でも気付かないほど、すでに瘴気はどこまでも果てしなく広がっていくほど強くなっていた。居るだけで嗅ぎ付けられるほどの瘴気が生まれる世界、それはつまり、魔王が居なくても世界は破壊と再生を繰り返していたのだ。 「そこで何してるの?」 王城の塀の傍に立つ木に登っていた魔王が振り返る。木の下から魔王を見上げていたのは若い女だった。色々な果実がいっぱいに積まれた籠を抱えた農民風の女だが、一目見て、魔王は悟った。 「あんた、負の化身でしょ?何?城を狙って悪巧みしてんの?」 「・・・人間を、観ているだけだ。我など居なくても、人間は常に殺し合う」 「ここの兵隊の隊長さんをあんなのにしたの、あんたなんでしょ?」 「しつこくせがまれた、我の意思ではない。人間を殺す為だけに、人間である事すら捨てる、そんな人間が、どんな人間か、観てみたくなった」 「で?答えは?」 「まだ分からない」 「これ食べる?」
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