昼の桜の木の下で

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「これが花見場所取りの七つ道具だ」 新人の木之崎が受け取った大型のバックは、思ったより重かった。 「ブルーシート、ピン、会社のダンボール看板。あとは、カイロ、夜中は寒いしな。空気で膨らます枕、断熱シートは薄いけど暖かいぞ、最後は塩だ。これは大事だからな」 篠山課長は塩の入ったビンを木之崎の手に置いた。 「なんで塩なんですか」 「夜中の二時頃に必要になる」篠山課長は静かにいった。まわりの社員達も頷く。 「まあ、わかるさ。行こう」木之崎の1年先輩の山下が促す。 会社から一駅のところにある公園。まだ昼下がりの頃なのに、ところどころブルーシートが広げられていた。 シートには所在なさげな人がスマホをいじっていた。 「ここがいい、今年もいつものところがとれたな」山下は、大きな桜の木の下シートを広げた。 木之崎が手早くピンで留めていく。 明日の朝まで、ここで過ごすことになる。 シートに寝転び、見上げれば満開の桜だ。 「明日の朝まで、十分に花見ができますね」木之崎はいささか溜息交じりだ。 「毎年のことだからな、残業代も出るし、のんびり過ごそうや、夜は長いぞ」山下は本を読み出した。 夕方過ぎには、他の社員が差し入れを持ってきてくれた。 夜桜見物といって飲んでいったりもした。 終電が出る頃には、また二人になった。
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