昼の桜の木の下で

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「少し呑んで、寝てしまおう」山下がバッグからビールを3本取り出した。 「そうですね。やることないし。一本多いですけど……」木之崎は、あまり酒が飲めない。 「なあ、なんで桜がこんなにきれいなのか、知っているか」 木之崎は、山下の問いかけに戸惑う。 「それはな、桜の木の下には、死体が埋まっているからなんだ」 「脅かさないで下さいよ」木之崎は山下の肩を叩いた。 「なあ、日本で年間何人が行方不明になっているか、知っているか」 「……」 「年間8万人だ。そのうち、7万人くらいは見つかるかなんかしているけど、あとの1万人は行方不明のままだ。行方不明の人は、どこに行っているんだろうなあ」 「ほんとうに、もう止めてくださいよ」もう一度山下の肩を叩く。 「それでな、どうしてうちの会社、場所取りに二人出すのか、知っているか。他を見てみろ、ほとんど一人だろ」 木之崎がまわりを見渡すと、一人ぽつねんとしているところが多い。 「数年前、ある人が一人で場所取りしていたんだ。朝になってみんなが来ても、その人はうつ伏せで寝たまんまだったんだそうだ。揺り動かしたら、その人の胸にはナイフが刺さっていたそうだ。物取りにあったんだ」 木之崎の喉仏が大きく動いた。 「それから、二人で行くことになってな。だから、もう一本のビールはその人への手向けだ」 木之崎は、ブルーシートの上に置かれたビールを見つめていた。 「それで、夜中になると、その人がふらりとやってくるって言うんだ。だから、塩でお祓いをな」 そこまで聞くと木之崎は、塩の瓶を握りしめ目をつぶってしまった。 「ま、そういう伝説というか、伝統というか、気にすんなよ。ちょっとトイレに行ってくるわ。もう寝てしまってもいいぞ」 と言って山下は公衆トイレに行ってしまった。 山下はなかなか帰ってこなかった。
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