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2.また咲く二人になって
病院で見るソメイヨシノの毒っけが強い深紫はわりといい。角度の悪い滑り台で止まってしまった子供の太腿の裏よりは美しいし、そして何より、私と小泉君の初めての色づきの色だし。
「今度お風呂の桶の中だった」
「あら、ついに?」
「ついにって何よ」
桜の花びらはスニーカーを抜け出して、私についてきた。
「今日はお弁当にいた。見られないように早業で追い出したけど」
「あらまぁ」
どんどんと間隔を狭めて私に何か言いたげなソメイヨシノに、直接的な反応を返すことができたのは冬のことだった。
「ソメイヨシノに訊く?」
「だってそうでしょう。私に何か御用ですかって、見染められた女の常套句でしょう」
「アホらしい。花に質問するの?」
「花の精には耳もあるし、声もあるかもよ?」
「ううん、でも、どうして私なんだろうね?」
「心当たりないのかい? 学校の写生大会で桜を書いたことがあったろ? 一等賞だった?」
「四等賞だよ」
「じゃぁ違うか」
「あれじゃない? 桜の枝に這ってた毛虫を食べてあげたとか」
「私は鳥じゃない」
「枝折ろうとしてた腕白坊主を拳固でやっつけたとか」
「私の拳骨はやわらかいですう」
「わからないんだったらしょうがないじゃない。直接訊いてみるしかない」
「ううん」
「一人で怖かったら母ちゃんついてこうか?」
「そんなん、おかしいよ。タクシーの幽霊は助手席に誰かいたら出て来ないって」
「花の精を幽霊と一緒にしたら花占いで全部ダメな方出されるぞ」
「いいよ、それぐらい」
私が母ちゃんにそそのかされてついに、ソメイヨシノに直接を訊ねようかと思いかねていた時、新しい色が花びらに混じった。
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