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「のう、少年。ここで何をしておる?」
唐突に降り注いだ、ころころと揶揄いの色を帯びた声に、誘われるように振り仰いだ。
赤い鼻緒の美しい下駄、春の色を重ねた着物に、灰色の長い髪が花弁と戯れるように靡いている。
「そんなところに登ったら、あぶないよ?」
僕の声にきょとんと眼を丸くした女性が、ふむ、と小さく頷いてふわりと飛びおりた。
風を含んだ袖が、羽のようにひらひらとはためく。
音も無く舞い降りた女性が、胸を張って、楽し気に僕を見下ろしていた。
「降りてきてやったぞ。して、少年。ここで何をしておるのだ?」
風が囁くように、心地よく流れる声。
細く赤みがかった瞳が、吸い込まれそうなほど美しかった。
女性は桜の下で、僕の前に降り立った。
僕は、一目で恋に落ちていた。
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