ひとひらの恋

2/14
前へ
/14ページ
次へ
「のう、少年。ここで何をしておる?」  唐突に降り注いだ、ころころと揶揄(からか)いの色を帯びた声に、誘われるように振り仰いだ。  赤い鼻緒の美しい下駄、春の色を重ねた着物に、灰色の長い髪が花弁と戯れるように靡いている。 「そんなところに登ったら、あぶないよ?」  僕の声にきょとんと眼を丸くした女性が、ふむ、と小さく頷いてふわりと飛びおりた。  風を含んだ袖が、羽のようにひらひらとはためく。  音も無く舞い降りた女性が、胸を張って、楽し気に僕を見下ろしていた。 「降りてきてやったぞ。して、少年。ここで何をしておるのだ?」  風が囁くように、心地よく流れる声。  細く赤みがかった瞳が、吸い込まれそうなほど美しかった。  女性は桜の下で、僕の前に降り立った。  僕は、一目で恋に落ちていた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加