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「何を企んでいるんだ。俺を助けても、あなたにメリットはーー」
「大佐からお前のお守りも命じられている。貴重な人材をみすみす死なせるわけにはいかないだろう」
「本心ではないはずだ」
勿論嘘だ。
大佐からは、「魔法薬学師の動向に気を配れ。何かあれば制圧しろ」と命令されている。
そんな事を本人に言えるはずもない。
そもそも、簡単に抱え上げられてしまうほど弱っているのに、よくもまあ懲りずに噛みついてこれるものだと感心した。
何より、今心配すべきは自分の今後の待遇についてだと、気づいているのだろうか。
生徒を危険な目に遭わせたのだから、それ相応の処罰は免れない。
本人は「責任をとる」と言っているが、大佐はそう簡単にこの男を野に放ったりはしないだろう。
そう伝えると、かつての友は心底面倒くさそうに毒づいた。
確かに大佐は面倒な男だ。
「それには同意だ」
「初めて意見が合いましたね、中佐」
「だから、その気持ち悪い敬語はやめろ」
まるで、三年前に戻ったみたいだ。
違うのは、殺した側と殺された側と言うこと。
本当は、今この場で片を付けたい。ーー楽になりたい。
奴の背中は目の前だ。
剣で一突きすれば、簡単に殺せる。
しかも弱っているのだから、絶好のチャンスだ。
・・・・・・そのはずなのに、アイザックは得物を握る力を弱めた。
(今はやめておこう。今だけはーー)
体の緊張を解き、友の重みと温もりを肩に感じながら、アイザックはレボリスに向かって、いつもよりゆっくりとした速度で滑走していった。
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