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午後の日差しが、枝葉の隙間から頬に差す。
聞こえるのは、風と水面の揺れる涼やかな音だけ。
獰猛な魔物の声も、外の世界の喧噪も、迷いの森の深奥部には届かない。
幹にまで白く小さな花を芽吹かせた大木の根本に、透き通った青い泉が形成されている。
その泉の中で、シェイドは一人まどろんでいた。
天を仰ぐように、仰向きで水面に浮かぶ。
水はまとわりつくのではなく、シェイドの体を慈しむように寄り添っていた。
「ーーシェイド」
閉じていた目を開け、シェイドは声のした方を見る。
泉の側に、タオルをくわえたルーヴが座っている。
側には着替えも用意されていた。
「いくら癒しの泉でも、長く入っていれば風邪をひくぞ。そろそろ上がった方がいい」
「もう少しいさせてくれ。ここが一番彼女を感じられるんだ」
浮かせていた体から力を抜き、泉の中に全身を沈めた。
とたんに静寂が訪れる。
ゆらゆらと波打つ水面を、水中から静観した。
そのまま下へ下へ、泉の側に立つ巨木の根を追って潜り続けると、水底に青白く輝く球体が見えてきた。
内側から発光している球体を守るように、巨木の根が周りを取り囲んでいる。
根の先は球体の中へ続き、"彼女"の胸元から生え出ていた。
胸の前で手を交差し、眠るように目を閉じている女性。
球体の表面に手と額を押し当て、シェイドも同じように目を閉じた。
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