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(・・・・・・アシュレイ)
これほど近くにいるのに、触れられない。
美しい黒髪、きめ細かな白磁の肌、長い睫が縁取る瞼。
全てが美しくーー愛おしい。
今すぐにでも抱き寄せ、掻き抱きたい。
それなのに、ただ見つめる事しかできない。
(早く、お前を自由にーー)
息が苦しくなり、シェイドは水面へ浮上した。
大きく息を吸い、荒い呼吸を整える。
「・・・・・・くそっ」
水面に拳を叩きつけ、毒づいた。
息が続くわずかな時間しか、彼女の側にいられない。
それが腹立たしくて仕方がない。
顔にかかる髪を掻き上げながら岸に上がり、濡れた衣類を脱ぎ捨てた。
体の至る所に、古傷がいくつも残っている。
その中でも一際目立つのは、比較的新しく、大きな傷だ。左肩から右脇へ袈裟懸けに残る裂傷痕と、胸部にいくつも残る傷跡。
それらを意に介さず、シェイドはタオルで全身の水気を拭いた。
乾いたシャツに袖を通していると、他の着替えをくわえたルーヴがすり寄ってきた。
「レボリスに戻るのか?」
「ああ。そうしないとうるさい連中がいるんだ」
「上層部、とかいう奴らか? 放っておけばいいものを」
「そうもいかないんだよ」
先日生徒を危険に晒してしまった。
全員無事だったとはいえ、学園の責任問題に関わるという事で、課外授業を発案したシェイドを査問するそうだ。
何を言われようと、どんな罰則を下されようと知ったことではない。自分の身に不利益な事が起これば、即刻レボリスを去ればいい。
それこそ武力行使で森へ戻る。
そもそも本業は"こちら"なのだ。
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