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「それにしても、僕の記憶にあるイラとはずいぶん違うなあ。こんな荒れ放題じゃなかったのに」
町を見回しながら、リアンは首を傾げた。
「前来た時よりも人が少ないし、建物もぼろぼろだよ」
「俺は一度も来たことがないから分からないが、中央都市に一番近い町がこの荒れようは、確かにおかしいな」
中央都市を守るために、周辺の町へ苦境を強いるのはレボリスに限ったことではない。
だとしても、最寄りの町がここまで廃れ、人々に活気がないのは不可解だった。
「とにかく、今日は宿で休もうよ。シェイドも慣れない馬車旅で疲れたでしょ?」
馬車から飛び降り、馬を撫でながらリアンは微笑む。
彼の言う通り、シェイドもルーヴも疲れ切っていた。
居心地の悪い馬車に、荷物と一緒に詰め込まれて一週間。精神的に限界だ。
幌から飛び降りて手足を伸ばし、シェイドは思い切り深呼吸をした。
森とは違う、少しだけ淀んだ空気。
どこか懐かしいとさえ思える。
宿の脇に馬車を停め、シェイド達は宿屋へ足を踏み入れた。
木製の宿は、先述した通り今にも倒壊しそうで、少々不安だ。しかし、背に腹は代えられない。
入り口を潜って声をかけると、初老の男性がやつれた顔で現れた。
どこか驚いているようにも見える。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは。今夜停めて頂きたいんですけど、部屋は空いていますか?」
一番愛想のいいリアンが訊ねると、男性は小さく頷いた。
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