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ミアは血走った目でシェイドを睨み、口角から泡を飛ばして罵った。その様子から、よほど心に余裕がないようだ。
手負いの獣同然の彼女から距離をとり、シェイドは淡々と口を開いた。
「では、息子さんに飲ませる薬を俺も飲みましょう。勿論、息子さんより先に」
「・・・・・・」
ミアからはいまだぴりぴりと疑いの気が感じられた。
「薬代はいりませんし、宿代もきちんと払います。どうか、まずは診させていただけませんか」
「・・・・・・分かりました。でも、私が後ろで見張っていますからね」
「そうして下さい」
彼女は渋々扉を開けると、シェイドを中へ案内した。
薄暗い室内は、蝋燭のか細く頼りない灯りによってほのかに照らされている。
カーテンを閉め切った窓の側に置かれたベッドで、まだ十もいっていないであろう少年が、苦しそうに息をしていた。
リアンを連れて少年の側に寄ると、シェイドは出来る限り優しい声音で「君がフィル?」と問いかけた。
フィルはうっすら瞼を開けると、こくりと頷く。
汗ばんだ額を撫でてやると、手のひらから熱が伝わってきた。かなりの高熱だ。
「俺はシェイド。魔法で薬を作る、魔法薬学師という者だ。君の具合を診せてもらうね」
「・・・・・・痛いこと、しない?」
不安そうに掛け布団を握りしめ、フィルは涙目で問う。
シェイドは微笑しながら首を横に振り、小さな手を握ってやった。
「大丈夫。痛いことはしないよ」
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