第5章

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「お前は部屋に行け。俺が彼を看ておく」 「どうして? 僕も一緒にいるよ」 「ずっと荷馬車を操っていただろう。少し休んだ方がいい」  食い下がるリアンを諭し、シェイドは手近な椅子をフィルの側に置き、腰掛けた。 「休めるときに休んでおけ。外はルーヴが見張っているし、今ならゆっくり眠れるぞ」 「なら、少し横になろうかな。シェイドも無理はしないようにね」 「分かった」  荷物を抱え、リアンは部屋を出ていく。  静まりかえった室内には、フィルの落ち着いた呼吸だけが規則的に聞こえる。  どうやら薬が効いてきたようで、穏やかな顔をしていた。  汗で額に張り付いていた前髪をそっと払ってやってから、シェイドは薄明かりを頼りに手持ちの本を開いた。  暇つぶしにはもってこいの、薬草全集。  アシュレイの弟子になって、最初に渡された本だ。  薬草といえど、症状によっては毒となりうる。だらか全ての薬草と効能、副作用を覚えるよう言われ、以来ずっと繰り返し読んでいる。  内容は覚えているが、基礎を振り返るのは大切だ。  ・・・・・・というのは建前で、本当は各ページに書き込まれているアシュレイの字を、何度も読んでいるのだ。  何をしていても、何を見ても、彼女を思い出す。  泣きそうになるほど、彼女が恋しい時もあった。 「・・・・・・お兄ちゃん、泣いてるの?」  不意に、横から訊ねられた。  フィルが目を覚ましていた。  慌てて目を閉じようとしたが、遅かった。 「わあ、お兄ちゃんの目、綺麗な紫色だね」
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