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「お前は部屋に行け。俺が彼を看ておく」
「どうして? 僕も一緒にいるよ」
「ずっと荷馬車を操っていただろう。少し休んだ方がいい」
食い下がるリアンを諭し、シェイドは手近な椅子をフィルの側に置き、腰掛けた。
「休めるときに休んでおけ。外はルーヴが見張っているし、今ならゆっくり眠れるぞ」
「なら、少し横になろうかな。シェイドも無理はしないようにね」
「分かった」
荷物を抱え、リアンは部屋を出ていく。
静まりかえった室内には、フィルの落ち着いた呼吸だけが規則的に聞こえる。
どうやら薬が効いてきたようで、穏やかな顔をしていた。
汗で額に張り付いていた前髪をそっと払ってやってから、シェイドは薄明かりを頼りに手持ちの本を開いた。
暇つぶしにはもってこいの、薬草全集。
アシュレイの弟子になって、最初に渡された本だ。
薬草といえど、症状によっては毒となりうる。だらか全ての薬草と効能、副作用を覚えるよう言われ、以来ずっと繰り返し読んでいる。
内容は覚えているが、基礎を振り返るのは大切だ。
・・・・・・というのは建前で、本当は各ページに書き込まれているアシュレイの字を、何度も読んでいるのだ。
何をしていても、何を見ても、彼女を思い出す。
泣きそうになるほど、彼女が恋しい時もあった。
「・・・・・・お兄ちゃん、泣いてるの?」
不意に、横から訊ねられた。
フィルが目を覚ましていた。
慌てて目を閉じようとしたが、遅かった。
「わあ、お兄ちゃんの目、綺麗な紫色だね」
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