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「・・・・・・本当に、本当にありがとうございます」
深々と頭を下げ、店主は涙声で礼を言った。
フィルの看病は一時彼に任せ、シェイドは宿の外へ出る。
昇り始めた月が、淡く地面を照らしていた。
光の消えた街灯の代わりに丁度いい。
リアンの荷馬車へ歩み寄ると、幌の隙間からルーヴが顔を覗かせた。
「お前の匂いがした」
ボールのように飛び跳ね、ルーヴはシェイドの腕の中へ飛び込んだ。
「すさまじく暇だ。荷台で一人寂しく留守番させられる我の気持ちが分かるか?」
鼻息荒く、ルーヴは主人の腕を甘噛みした。
留守番が不満だったのではない。
ただ、心配だった。
シェイドの体調は良いのだろうか。
また自分のいない所でボロボロになっていないだろうか。
シェイドが無理をして、その宝石のような瞳から光が消えてしまわないだろうか。
レボリスの国壁から落ちてきた後のシェイドの姿を目の当たりにしてからというもの、ルーヴは不安でたまらなかった。
使い魔という契約上の関係だが、それ以上にシェイドは兄弟同然の存在だ。
元の主人だったアシュレイを失ったルーヴにとって、シェイドはただ一人残された家族。
もう側を離れてはいけない。
たとえ邪険にされようとも、この最強で弱々しい生き物を守らなければならない。
シェイドの細腕に抱かれながら、ルーヴは低く唸った。
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