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それを不満と捉えたシェイドは、苦笑した。
「悪いな。もうしばらく辛抱してくれ」
「しばらくって、この町に留まるのか?」
「病人がいる。俺の薬が少しは役に立ちそうだ」
「どうせ無償で施しているのだろう。お人好しめ」
「こんな寂れきった町から、何も取れやしないよ。それに、魔物の被害も出ているらしいから、先へ進むなら俺たちも無関係じゃいられない」
「魔物?」
ルーヴの耳が揺れる。
「こんな中央都市に近い町に魔物が出るのか?」
「どうもそうらしい。町に奇病が流行り始めるとほぼ同時に現れたそうだが、どうもきな臭くてね」
「それほど深刻な状況なら、軍が来てもおかしくないだろう。早く場所を移した方がいいのでは?」
不要な戦闘は避けるに越したことはない。
特に、今のシェイドは万全の状態ではなく、大勢に攻め込まれれば不利だ。
ルーヴはシェイドの顔を真正面から見据えると、静かに諭した。
「いいか、お前は確かに強い。しかし、過信するな。
これまで目を伏せて盲目を演じていても、結局紫眼によりある程度の視覚情報は得ていた。
だが、今のお前は紫眼を乱用できない。つまり、目を閉じれば本当に視界が失われる。何も見えない状態で敵と戦うことになるんだ。
紫眼頼りに戦ってきたお前が、すぐに対応できるとは思えない。
目を開けて戦うだけなら体に支障はないだろうが、戦う相手が人間ーー特に昔のお前を知る人間であれば、正体がばれる危険をともなう。
他人に優しいのも結構だが、今だけは自分の身を第一に考えてくれないか?」
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