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この広い魔法世界に、紫紺の魔眼を持っていたのはただ一人。
謎の死を遂げた希代の大魔導師。
印象的な紫紺の瞳と、圧倒的戦闘力から紫眼の魔導師と呼ばれた、一人の男だけ。
アイザックは、そのたった一人の男を知っていた。
知っていたーーという表現では足りない。
もう一人の自分のような存在だった。
「ユリウス・・・・・・」
顔だけ見れば、確かにシェイドは親友ユリウスに瓜二つ。
だが、あの生ぬるい考え方はユリウスと真逆だ。
どんな状況であろうと、かつての親友は勝利を望み、戦いを楽しむ男だった。
それがどうだろう。
ユリウスが名と身分を偽って現れたと信じ、わざわざ試したというのに。
あの男の戦い方は、力こそ自分を圧倒していたが、相手に慈悲を与える生ぬるさ。
自分の知る限り、ユリウスはけしてそのような男ではなかった。
敵を徹底的に排除し、刃向かう者は何であろうとーー女子供であろうと殺し尽くす。
そんな残忍な男である一方、自らの仲間は何よりも大切に思う男だった。
そんな気高いユリウスが、一瞬でもあの男なのではと疑った自分が許せない。
なにより、親友は五年前、目の前で死んだ。
この手でーー殺した。
あの驚愕しきった友の顔を、忘れはしない。
本意ではなかったとはいえ、友をこの手にかけたのだ。
「・・・・・・っ。すまない、ユリウス・・・・・・!」
この罪悪感は、死ぬまで消えない。
消えてはならない思いだ。
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