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ここは、断るべきだ。
今在る平穏な日常を捨てて、一つの国に長期滞在する危険をおかす必要はない。
だがーー書物の所有数が強国一と謳われるレボリスの、しかもマリアードの図書を自由に閲覧できるのは、この上なく甘い話だ。
どこを探しても見つからなかった文献。
マリアードなら、残っているかもしれない。
「・・・・・・森とレボリスを自由に行き来できる権利と、一人部屋を用意しろ。それで手を打つ」
「決まりね! じゃあ、明日の朝迎えにくるから、必要な荷物を持って、ここで待っていなさい」
いろいろ準備があると言いながら、せっかちな彼女は早々に立ち去っていく。
すると、それまで静かだった近くの茂みがガサリと揺れ、馬ほどもある巨大な白い狼が姿を現した。
額には赤い魔法石が埋まっている。
狼はシェイドに歩み寄ると、腰を下ろした。
「・・・・・・本当に人の国へ行くつもりか」
「ああ。俺の捜し物が見つかるかも知れない」
「どうせ利用されるだけだぞ。私は反対だ」
「ルーヴ・・・・・・」
苛立つルーヴの背を撫で、シェイドは微笑する。
「そうなったとしても、俺はあの薬に関する情報がほしいんだ。お前もついてきてくれるんだろう?」
「行くしかないだろう。マスターから、お前の世話を頼まれているし」
「ありがとう」
このままの大きさでは怖がられてしまうが、ルーヴは魔物だ。額の魔法石を使って少しなら魔法も使えるし、姿も変えられる。
相棒の背に飛び乗りながら、明日から始まるであろう地獄の日々を、どのように乗り越えようか、シェイドは思案するのだった。
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