第1章

14/42
前へ
/331ページ
次へ
 ここは、断るべきだ。  今在る平穏な日常を捨てて、一つの国に長期滞在する危険をおかす必要はない。  だがーー書物の所有数が強国一と謳われるレボリスの、しかもマリアードの図書を自由に閲覧できるのは、この上なく甘い話だ。  どこを探しても見つからなかった文献。  マリアードなら、残っているかもしれない。 「・・・・・・森とレボリスを自由に行き来できる権利と、一人部屋を用意しろ。それで手を打つ」 「決まりね! じゃあ、明日の朝迎えにくるから、必要な荷物を持って、ここで待っていなさい」  いろいろ準備があると言いながら、せっかちな彼女は早々に立ち去っていく。  すると、それまで静かだった近くの茂みがガサリと揺れ、馬ほどもある巨大な白い狼が姿を現した。  額には赤い魔法石が埋まっている。  狼はシェイドに歩み寄ると、腰を下ろした。 「・・・・・・本当に人の国へ行くつもりか」 「ああ。俺の捜し物が見つかるかも知れない」 「どうせ利用されるだけだぞ。私は反対だ」 「ルーヴ・・・・・・」  苛立つルーヴの背を撫で、シェイドは微笑する。 「そうなったとしても、俺はあの薬に関する情報がほしいんだ。お前もついてきてくれるんだろう?」 「行くしかないだろう。マスターから、お前の世話を頼まれているし」 「ありがとう」  このままの大きさでは怖がられてしまうが、ルーヴは魔物だ。額の魔法石を使って少しなら魔法も使えるし、姿も変えられる。  相棒の背に飛び乗りながら、明日から始まるであろう地獄の日々を、どのように乗り越えようか、シェイドは思案するのだった。
/331ページ

最初のコメントを投稿しよう!

825人が本棚に入れています
本棚に追加