4章 水の都に迫る戦禍

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 メルディエルが創世の聖戦から数千年経った今でも、ガルグにとって世界最大の対抗勢力となり得る理由がそれだ。  そしてそれを維持しているのがメルディエルの神官であるセリエンと、二振りの聖剣だ。  しかし、ヴァルディースにはそんな事はどうでもよかった。ここにレイスはいない。ロゴスを懐に閉じ込めることができたのは確かだが、それ以上の打つ手は乏しい。メルディエルの情報待ちという状況は、苦痛でしかない。  拳に込めた力が自分の身を抉る。ぎりりと、歯をくいしばる。今すぐにでもロゴスの行方を探しに行きたい。そう思うのに、今の自分には手も足も出ない。せめてレイスの意識が僅かでも流れてきてくれるなら、気配をたどって追いかけることができるというのに。 「ヴァルディース」  不意に誰かに呼ばてはっとした。顔を上げるとすぐそばにメイスの姿があった。 「声かけないと気づかないってことは、あんたもよっぽど余裕がないみたいだな」  メイスの苦笑につられて口の端を釣り上げようとしたが、正直笑えるような状態ではなかった。メイスを取り巻く風の小精霊たちが、酷くヴァルディースを憎み、嫌っているというのもある。原因は明白だ。  感情に駆られてメイスを襲った。だというのにメイスの態度が変わらないことが、逆にヴァルディースを困惑させた。     
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