5章 懐かしき光の大地

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 今度は返答はなかった。沈黙は肯定ということかもしれない。グライルがもとより余計なことを語ろうとしない男だ、ということはレイスの記憶で知っている。グライルに抱く苛立ちや怒りから、言いたいことや問い詰めたいことは山ほどあったが、この状況を打開するまで、まだ置いておくしかないだろう。  今回の計画で、要となるのは四属性の魔力を受けるユイスとレイスだった。ユイスにはユーアの加護もあったはず。二人が欠けたら成り立たなくなる。  アルスを確保するためにセリエンを夢幻境界に送り込んだことで、ロゴスを取り逃がす可能性は、ザフォルの想定内だっただろう。その際に人間でしかないユイスやレイスを奪われ、利用されることも。その場合に備えて、ザフォルはメイスにも伝えていなかった計画の全てを、グライルには打ち明けていたはずだ。闇に抗えるのはグライルしかいない。  グライルは、アルス奪還に動いたロゴスを待ち伏せ、その闇に潜伏した。四属性の魔力が届くまで、闇からユイスやレイスを守る防壁となるために。  これはヴァルディースの予想でしかないが、きっと大きく間違えてはいないだろう。  そしてグライルの役割がそうであるなら確かめなければいけないことがいくつかある。 「この空間はあとどれくらい持たせられる?」 「それほど余裕はない。だが、レイが起きるまでは持たせてみせる」  余裕はないと言いながら、断言するグライルが癇に障った。それほどこの男のレイスに対する気持ちは強いらしい。     
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