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未だレイスの反応はない。静かに闇の中で揺蕩っている。気配も遠いままだ。表情は見えない。けれどヴァルディースにはどこか、泣いているようにすら見えた。
「やっと会えたな」
ヴァルディースは語りかけた。
「相変わらずお前は俺に近づこうとしない」
砂漠の夢幻境界で共に過ごして以来、レイスはいつもそうだ。なかなか近づいてこようとしない。身を縮めて拒絶する。こちらが近づこうとしても、むしろ離れていく。何度それで苛立たされただろう。今もまた同じ繰り返しだ。
「おまえはやっぱりまだ、俺を受け入れてくれてはいないのか?」
ヴァルディースへの思慕を、強制的に刷り込まれた偽物の感情だと認識していたレイスを、無理矢理魅了したくはなかった。レイス自身の意思で、認めて欲しかった。
ほんの少しだけ心を許してくれるようになったと思ったが、魔気嵐のせいでこちらから手放したような格好になったまま、ロゴスに奪われた。
ずっと不安だった。打がレイスはヴァルディースを呼んでくれた。レイスが求めてくれるなら、ヴァルディースは何を置いてもそれに応えなければいけない。精霊の本能とかそんなものは関係なく、ヴァルディースがそうしたいのだ。
「レイス」
ただ名前を呼ぶ。レイスの意識に語りかける。『俺はここにいるぞ』と、伝える。レイスが、この闇の中で自分の姿を探し求めていてくれることに望みをかける。
ヴァルディースは、レイスが誰よりも温もりを欲していることを知っている。共に生きることができる、失うことのない安らぎを求めている。そしてそれは、自分しか与えてやれないものだという確信もある。他の誰にも譲る気などない。ユイスやメイスにも、もちろんグライルにも。
悠長に待っている時間はない。だからこれは賭けだ。
「俺と一緒に生きろ、レイ」
絶対にもう、手放さない。
ヴァルディースは耳をすませた。レイスが応えてくれるなら、呼んでくれるなら、決して聞き逃したりなどしない。
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