5章 懐かしき光の大地

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 心が凍る。何も感じなくなっていく。ただ、寒さだけが残る。それでもレイスはまだ、足掻いた。  落ち着いて、と何かが言った。呼んで、と。  一体なんだ。何が落ち着いて、だ。こんな状況で何を呼べるわけもないではないか。あたりは怨念渦巻く闇しかないのに。  もう一度、落ち着いて、と願う声が聞こえる。そんなことを言われてもどうしろと言うのだ。より深く、濃い闇に引きずり込まれていく。それに抗うだけで精一杯。 ーー大丈夫あなたは足掻けているから。  だからなんだというんだ。当たり前だ。こんな苦しくてつらい状況、逃げたいに決まっている。 ーーそうね。当たり前。あなたは生きたいと思っているもの。  生きたいと思っている。そう言われて、レイスは思わず動きを止めていた。生きたい。何を言っているんだ、と声の主の言葉を反芻し、する。 ーーヴァルディースもそれをわかってる。だから、あの子は絶対諦めたりしない。  ヴァルディース。それは闇に呑まれてしまったあの炎の狼の名だ。  跡形もなく消え去っているはずだ。なのに、なぜこの声の主は諦めていないなどと言えるのだろう。     
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