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足元を示された。いつのまにか怨念が遠ざかっている。さっきまで抗っていたはずの苦しさもない。諦めず抗ったから、だとでも言いたいのだろうか。自分が、生きたいと思っているから?
あの狼も、だから諦めていない?
まるで怯えるように、怨念は近づいてこない。
ーー呼んであげて。
もう一度、声は言った。
お前の思考や記憶が流れ込んでくる、と誰かが言っていた。
どこまで遠く離れてもお互いを求めあってしまう。未来永劫共に生きるしかない。そう言っていたのも、同じ相手だっただろうか。
「ヴァル、ディース……」
闇に消えたはずの狼が、脳裏に浮かんだ。それと同時だった。
レイス。そう、誰かが自分を呼ぶ声がはっきり聞こえた。自分が呼んだヴァルディースの名に応じるように。
渦巻く怨念が一斉に晴れていく。その向こうに狼と同じ焔色の髪をした男が見えた。
「ヴァルディース……。あんた、が」
顔を合わせてその名を呼んで、途端に記憶が蘇る。砂漠の中で出会った最初から最後まで。ユイスを殺した後悔に囚われて何度も自分を傷つけたその時から、側にいてくれた。
目が合った相手が一瞬、驚いて、そして安堵したように笑った。
手を、差し伸べられた。
「俺と一緒に生きろ、レイ」
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