5章 懐かしき光の大地

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  レイスは怯え、身を竦ませた。思考を書き換えられたんだと怒りもした。わけのわからない衝動に恐怖もした。しかしはっきりと胸に衝動がこみ上げる。獣の姿をした相手の懐で、温もりに包まれて眠った。とても、温かかった。あの温もりが忘れられるわけもない。 「でも、オレは、あんたのことも、この手で」  消そうとした。ロゴスに乗っ取られていたとはいえ、この身で彼を消し去ろうとした。それは決して許されるべきことではない。自分にはその手を取る資格などない。 「お前には、出会って最初に殺された。忘れたのか。お前が言ったんだぞ。『オレと一緒に死ね』って。今更だ」  ヴァルディースはそんなレイスの怯えを、鼻で笑い飛ばす。レイスはきょとんとした。そんなこと、言ったのだろうか。覚えてない。でも、ユイスを失った直後の自分だったら、ありそうな気がする。 「オレは、あんたのこと、何も、知らない」 「これからいくらでも教えてやる。むしろ、俺ばかりお前のことを知ってちゃ不公平だ。知ってほしいと思ってる」  なんでそんな風に誘惑してくるのだろう。心がはやる。今にもその言葉を言ってしまいそうだった。でもそれを自分が言っても許されるのか。願ってもいいのか。 「オレは……っ」 「レイの馬鹿!」  その声にハッとした。ヴァルディースの背後に垣間見えた存在に、レイスは目を疑った。 「このわからずや! 僕たちがどれだけ心配してると思ってるの! 早く帰ってきてよ。みんな待ってるんだから!」     
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