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グライルが叫ぶ。腕の中のレイスがその声にはっとした。
顔を真っ赤にしたユイスが、慌ててフェイシスの名を叫ぶ。
引き裂かれた空間に、光に続いて滝のように水が流れ込んだ。水は声に導かれるままユイスを引き寄せ闇の中から掬い上げる。ヴァルディースはレイスを強く抱きかかえたまま、引きずり出されていくユイスにしがみついた。
「グライル、お前も!」
来い、と手を差し伸べようとした。しかし光に照らされた闇の向こうで見た姿に、ヴァルディースは呆然とした。伸ばした手は何も掴むことができなかった。グライルはもはやほとんど闇と同化して、老人のように嗄れていたのだ。
「あんた、なのか」
レイスが抗うように、ヴァルディースの腕の中から身を乗り出した。ヴァルディースは再び闇の中に落ちそうになるレイスを咄嗟に引き戻す。レイスの手はグライルに届くことなく、水の勢いに乗ってどんどん引き離されていく。
「待ってくれ、いやだ。なんであんたが!」
光に覆い尽くされ、存在が掠れていく中で、グライルが微笑んだような気がした。
あれではもう助からないだろうということは、誰の目にも明らかだった。抗ってしまえば取り残される。行け、と、微かにグライルの声が聞こえた気がした。
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