5章 懐かしき光の大地

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 ザフォルの額には大粒の汗が浮いていた。あの男は結界ごとあの女とスィッタを夢幻境界へ飛ばすつもりなのだ。 「しばらく戻ってこれないと思うんだよね。でも大丈夫。ヴァシルはセリエンに抑えてもらってるから、当分は動けない。悪さするとすればクレイとエイドスあたりかな。その辺はあんたらにお願いすることになるかも」  ごめんね、と、息切れをしながらもおどけるような仕草で頭を下げたザフォルを、ヴァルディースは結界に阻まれ呆然と見ているしかできない。 「じゃ、またね」  最後までふざけた笑みを浮かべたまま、ひらりとザフォルは残った片手を振った。  その瞬間、目の前で空間の歪みが弾けて消えた。何事もなかったように、南国の太陽が惜しみなく光を大地に降り注がせる。  下では何も知らない人間たちが、変わらず平穏な日常を繰り返していた。今の今まで壮絶な戦いが繰り広げられていたなんて信じられないほどに、穏やかだ。 「これ、で終わりだってのか? 結局わけのわからないままだろうが!」  最初から最後までザフォルは一方的で、自分勝手だった。怒りを晒してもその相手はどこにもいない。  グライルも消えてザフォルも消えて、大きな世界のうねりが丸ごとどこかへ行ってしまった。大団円には程遠く、飲み込むことのできないトゲが喉に刺さっているようだ。     
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