エピローグ

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 ようやく顔を上げたレイスが、泣き出しそうな顔でヴァルディースを見上げた。ぽんと、頭を撫でてやる。石から離れ、胸にしがみついてきたレイスを、ヴァルディースは抱きとめ、包み込んだ。  メルディエルの一件からすでに一年余りが過ぎていた。  この一年は、レイスにヴァルディースの魔力を馴染ませることに集中してきた。  最初こそただヴァルディースに身預けるだけで、メイスはおろかユイスとも関わろうとしなかったものの、少しずつではあるが、家族と再び打ち解け始めている。  家の方からは、赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。レイスがその声に反応して顔を上げた。赤ん坊というのは不思議なもので、凍りついたレイスの感情をいともたやすくほぐしてしまった。最初は恐る恐る触れるだけだったのが、今では慣れない手つきながらもあやしている。あの事件の直後に妊娠が発覚した、グライルと姉エミリアの子供だ。  母の前から離れ難そうにするレイスの背を、家に向けて押しやる。  母の死に際については、メイスから散々聞かされた。それでも未だ罪悪感に苛まれて夜中に飛び起きるレイスを、このまま動かさずにいたら、また過去に引きずられてしまうのは目に見えていた。  レイスと入れ替わりにメイスがこちらへ近づいてくるのが見えた。 「母さんを一人にしておくわけにはいかないから、おれたちは残るよ」     
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