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日が暮れて眠るには早い頃、最近レイスはよく一人で盃を傾けている。手にしているのは強い酒であることが多いが、酔えるわけではないらしい。精霊になったからというだけではなく、これは人間だった頃から同じだ。きっと気持ちの問題なのだろう。
ヴァルディースはさして減らない盃をレイスから取り上げ、飲み干した。ほんのり乳の香りがする、この土地で作られた酒だ。
「悪くない」
ヴァルディースの味覚は、本来ならない。あらゆる感覚は、レイスと共有し始めてから、レイスを通して知った。
この酒は比較的ヴァルディースも好きな味だ。
「ずっと昔、兄貴が飲んでるのをこっそりくすねて酔っ払って、子供が飲むものじゃないって、酷く怒られた」
「懐かしいか?」
「懐かしいけど、あの頃は美味いと思えなかったのに、今は、全然違う」
レイスが言いたいことは、酒の話に限ったわけではないということは、ヴァルディースにはわかっている。この土地も空気も、そこに住む人間も、全てレイスにとって懐かしくも、昔とは違う存在なのだろう。
「やっぱり、ここはもうオレがいるべき場所じゃない」
ここに来る前、ヴァルディースは、フォルマンの草原に残りたければそれもいいと、レイスに伝えていた。ここに来るまでは本人も悩んでいたのだ。けれど、結局レイスは残ることを選ぶことはできなかった。
予想はできていた。レイスにとってここはすでに過去の世界であり、罪を思い知らされる場所でしかない。今更生活していくことは難しいだろう。
「レイ」
ヴァルディースはレイスを抱き寄せた。一瞬レイスは身を強張らせたが、膝の上に乗せて抱きしめると顔を赤くして恥じらうように目を伏せる。
そんなレイスに深く口づけ、意識を奪う。
「安心しろ。おまえの居場所はここだ」
喘ぐレイスの吐息の合間に囁いた。
「おま、っ、ずる、いっ」
顔を覆って腕の中から逃れようとするレイスを引き戻し、もう一度口づけヴァルディースはわざと笑ってみせた。
「だから、何がずるいんだ?」
レイスが言葉に詰まって、歯噛みする。その様がとても愛おしい。
指を絡め、肌を重ね合わせ、ヴァルディースで満たす。レイスに漠然とした不安など抱く必要がないのだと身をもってわからせてやる。
レイスもそれに応える。もう闇はどこにも存在しない。
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