1章 炎の記憶

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 ユイスは生き返るのか? またもう一度会うことができるというのか。どうやって。でも、それはつまりユイスが自分と同じものになってしまうという事ではないのか。  冗談じゃないとヴァルディースは思った。ユイスに、一度死んだ恐怖を味あわせてもう一度よみがえらせるのか。自分と同じ目に合わせるというのか。  だとしたら、こいつは敵だ。自分の欲望のために、ユイスを苦痛しかない世界に放り込もうとするなんて、認められない。  ヴァルディースは再度身を震わせ、吠えた。憎悪によって巻き上がる業火はさらに躍り狂う。周囲の配線が燃え上がり、火花が散って水槽の明かりが落ちた。  目の前の男は肩をすくめ首を振る。それだけでヴァルディースの炎がかき消された。ふざけた態度に頭に血が上った。  ヴァルディースは飛んだ。全身をバネにして目の前の男に殴りかかろうとした。だが、自分の動きがまるで自分のものではなかった。無様にヴァルディースは床に倒れこんだ。感覚がおかしかった。歩幅が、腕の長さが、筋肉の質が、何もかもが自分の記憶と異なっていた。ヴァルディースは戸惑い、目の前の男を見上げた。  男は、呆れたように笑った。     
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