桜トンネル

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「どんなに痩せても、このほっぺは落ちないのよね。桜子の桜餅。 今なら私、だいぶくたびれちゃってるからさ。期間限定でお安くしておくわよ」 葉介の顔なんて見れるわけないから、シャツの胸ポケットあたりを目がけて投げかけてみた。 「まじで?それはお買い得かもな」 頭の上から調子に乗った声が降ってきたので 「うん。かなりね。いつもは市場に出回らない超人気商品なんだから」 と、明るい声で返すことができた。 「あー、でも賞味期限が心配だなぁ」 そう言いながら葉介は、両手で私の両方の頬をつまんだ。 あの日みたいに。 「大丈夫。毎日栄養くれれば、向こう三十年はぴっちぴちなんだから」 ムキになって言ったものの、三十年は言いすぎだったかとちょっと後悔していると 「どれどれ?」 と、私のほっぺをぷにゅぷにゅと引っ張った。やわらかさを確かめるように。 「ほんとだ。まだ餅だ。…俺のものにしていいんだよな?」 いきなりエネルギーを投下されて、顔が熱くなる。 何も言えなくて、こくんとうなずくと 「それじゃあさっそく」 そのまま、涙でぐちゃぐちゃの私の顔を大きな掌で包み込んで、上を向かせる。 桜餅は葉っぱにくるまれて完成する。 「いただきます」 閉じた瞼の向こうに、さざめくように揺れる桜が見えた気がした。
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