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桜里高校に向かう通学路に、桜並木がある。
バス通りから続く桜並木は、校門に続く最後の二十メートルほどは道幅が狭くなり、左右に植えられた桜の木がお互いに枝を広げ、アーチを作っていた。
毎年春になると満開の桜がトンネルを作り、その下をくぐって通学する生徒たちからは、いつしか「桜トンネル」と呼ばれていた。
私が初めてこの「桜トンネル」をくぐったのは、入学式の日だった。
満開の桜を見上げながら、憧れの高校に入学できた喜びと、高校生活への期待と不安で胸を膨らませていた。
そして、この「桜トンネル」にまことしやかに伝えられる伝説があることを、この時はまだ知らなかった。
この学校で、忘れられない出会いがあった。
三年間同じクラスだった、坂倉葉介。変なあだ名付けられて第一印象は最悪だったけど、不思議と馬が合って、気が付けばいつも一緒にいた。
今思えば、初恋だったんだと思う。
だけどそう呼ぶにはあまりにも近くにいすぎて、失うのが怖くて、結局友達でいることを選んだ。
手をつないで歩くより、お互いを称えるような、励ますような、ハグやハイタッチをしていたかった。
私には子供のころから持っている夢があった。
それは地元にいては叶えられない夢だった。
高校を卒業したら東京へ行くと決めていた。
私たちはあの日、何の約束もせずに離れた。まるでまた明日学校で会えるかのように。
もうあの場所には戻れない。そんなこと、わかっていたくせに。
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