桜トンネル

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 高校を卒業してから十年の月日が経った。 就職してからは七年。季節の移り変わりがあまり感じられない東京での暮らしは、本当にあっという間で。気が付けばまた、春が近づいていた。 毎年春になると送られてくる、桜の写真。一目であの場所だとわかる。 送り主は葉介だった。 「また咲いたよ」とも「帰ってこい」ともない、ただ一枚だけ綺麗な写真を送ってくる。 私にはその写真が嬉しくて、懐かしくて、眩しくて。 いつしか心待ちにするようになった。この写真が届くうちは、まだ葉介は一人でいるのかもしれない。そんな小さな期待もあって。 この七年の間に自分はいくつか恋をして、泣いたり笑ったり、それなりの時間を過ごしてきたというのに。葉介には一人でいてほしいと願うなんて、自分勝手だってわかっている。 帰ろうと思えばいつだって帰れるのに、あの場所はひどく遠い場所になってしまった。 今見上げる桜トンネルは、あの頃と変わらないだろうか? それを確かめるのが怖いのはきっと、変わってしまったのは私の方だと思うから。 半年前、恋人と別れた。 同じブランドのMDで、五歳年上の彼。MDという仕事は、とにかく忙しい。市場調査や他ブランドの動向を調べ、自社ブランドの戦略や方向性、生産量なども決める大変な仕事だ。入社して三年目に先輩のデザイナーが辞めてから、突然任される仕事が増えて目が回る忙しさになった時、助けてくれたのはその人だった。 いつも誰よりも早く出勤して、一番最後に帰る。それなのにどんな時もおしゃれで、最先端のファッション。駆け出しのデザイナーの卵が近づけるような人ではなかったのに、何かにつけ声を掛けてくれた。東京に知り合いの少ない私にとって、いつの間にか頼れる唯一の人になっていた。 一人暮らしの自分の部屋にいる時間より、会社にいる時間の方が長い。 常に半年先、一年先の服のデザインを考えているアパレル企画室の人間にとって、現在の季節はすでに過去のものになっている。 これから暖かくなるんだっけ?寒くなるんだっけ?そんなことも時々わからなくなる。 彼と一緒に過ごす時間が私の精神安定剤になっていた。
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