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「してもらっておけば良かったって、思ったよ」
「俺だって…ってか、それ俺の方だから」
「え?」
「何度も思ったよ。あの時キスしていれば、おまえはまだ俺のそばにいたのかなって」
「葉介」
「だけど、お前には夢があって、ここでは叶えられないってわかってて。俺がしばりつけちゃいけないって思ったんだ。あんな伝説…ほんとかどうかもわからないのにな」
桜トンネルの伝説…それは「桜トンネルの下でキスをした二人は結ばれる」というものだった。
初めて聞いたときは「ベタ過ぎる」とか「少女漫画か」とか思って全然信じていなかったけど、実際に結婚した人がいるとか、あの夫婦もそうだったとか聞くと少しは有りうるかと思えてきて。
私と葉介は三年間同じクラスで、結果的に一番の仲良しだった。
お互いに気になって気になって、でもどちらからも言い出せないまま、卒業の時期を迎えてしまった。多分仲が良すぎて、この関係を壊したくなくて、そのまま友達でいるしかなくなってしまったのだ。
毎日一緒にいて、帰りはよく自転車に乗せてもらった。
春、この桜トンネルを自転車で通り抜けるのが好きだった。
葉介の背中につかまりながら天を仰いで、桜の花びらを追いかけた、夢のような時間。
この時間がずっと続くと思っていたのに、別れの時はすぐそこまで来ていた。
卒業後は私は東京の服飾専門学校へ行くことが決まっていたし、葉介は地元の国立大学が第一志望だった。
卒業式の日、葉介は受験日で欠席した。
合格したら桜トンネルで会おう。それだけ約束して私たちは卒業した。
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