桜トンネル

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「わかんないけど、私は多分葉介のこと」 「桜子」 「え。何、ここで名前呼んじゃう?いつも餅っていうくせに」 「桜子」 「…はい」 「今わかった。俺は桜子のこと、友達以上の気持ちで、大事にしたいと思ってる」 「葉介…私も」 好き、とも。離れたくない、とも違う。ただ今のままでお互いを大事にしたいと思ってる。私たちはそれでいいんだと思った。 離れることは決まっているから。遠くにいてもお互いを大切に思い続ける。 「桜子、一つだけ頼みがある」 「何?」 「その桜餅に触ってもいいか?」 「へ?」 驚きすぎて間抜けな返事をしてしまった私の頬に手を伸ばして。 両方のほっぺたをむにっとつまんだ。 「思った通りだ。やわらけー」 そう言いながらむにゅむにゅと引っ張る。やわらかさを確かめるように。 そしてそのまま葉介の顔が近づいて来た。 これは…目をつむる場面なのか?とかまえた瞬間、葉介は私のほっぺたを解放した。 永遠に。 三年間の私たちの、どのシーンよりも一番近い所にいたのに。 葉介は私の目を見て、頬から離した手を頭にあてて、ぽんぽんと二回たたいて、くるっと背を向けた。 そしてなんの約束も無いまま、私たちは離れた。 いつものように、手を振って。 「東京へ行っても元気でな」 それが最後の言葉だった。
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