12人が本棚に入れています
本棚に追加
「わかんないけど、私は多分葉介のこと」
「桜子」
「え。何、ここで名前呼んじゃう?いつも餅っていうくせに」
「桜子」
「…はい」
「今わかった。俺は桜子のこと、友達以上の気持ちで、大事にしたいと思ってる」
「葉介…私も」
好き、とも。離れたくない、とも違う。ただ今のままでお互いを大事にしたいと思ってる。私たちはそれでいいんだと思った。
離れることは決まっているから。遠くにいてもお互いを大切に思い続ける。
「桜子、一つだけ頼みがある」
「何?」
「その桜餅に触ってもいいか?」
「へ?」
驚きすぎて間抜けな返事をしてしまった私の頬に手を伸ばして。
両方のほっぺたをむにっとつまんだ。
「思った通りだ。やわらけー」
そう言いながらむにゅむにゅと引っ張る。やわらかさを確かめるように。
そしてそのまま葉介の顔が近づいて来た。
これは…目をつむる場面なのか?とかまえた瞬間、葉介は私のほっぺたを解放した。
永遠に。
三年間の私たちの、どのシーンよりも一番近い所にいたのに。
葉介は私の目を見て、頬から離した手を頭にあてて、ぽんぽんと二回たたいて、くるっと背を向けた。
そしてなんの約束も無いまま、私たちは離れた。
いつものように、手を振って。
「東京へ行っても元気でな」
それが最後の言葉だった。
最初のコメントを投稿しよう!