お花見

2/12
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
 春はあけぼの。なんて清少納言は言っていたらしいが、現代の春はまだまだ寒いし、まだまだ眠い。冷たい空気を自転車で切り裂きながら大きなあくびをした。  うちの会社では花見の場所取りは前年の新入社員の仕事になっていてる。例年はじゃんけんで決めるらしいが、今年は家が近いのと自他ともに認める晴れ男という理由で問答無用で俺に決まった。  始発前で人影もほとんどない駅を通過し、公園近くの駐輪場に自転車を停める。ブルーシートやそれを固定する重りなどが入ったリュックを担ぎ直して満開の桜の下を歩いた。学生時代からなんども訪れた公園だ。見慣れた桜よりも今日はその下で場所取りをしている集団に目が行ってしまう。まだ夜が明けて間もないというのに敷地の半分くらいがシートで埋まっていた。上司に「最高の場所をキープしておきますよ」と豪語したからにはせめてそれなりの場所を確保しなければ格好がつかない。俺は少し小走りになり、公園の中心付近の大きな桜の木を目指した。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!