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「お前が起きたんなら俺少し仮眠取るぞ。昼にコンビニ行くから二時間くらいな」
ゆっくりと倒れるように仰向けに寝転ぶと忘れかけていた眠気が襲いかかってきた。目をつぶるのが惜しいくらいの満開の桜から花びらが舞う。いい夢を見られる予感に胸を躍らせている俺の眠りを妨げるように「なあ、向井」と西野が呼ぶ声がした。
「長濱、昼休みに差し入れ持ってきてくれるらしいぞ」
飛び起きたはずみに桜の花びらが目に入った。あぎゃ! という言葉にならない悲鳴を上げて西野を見ると膝の上にノートパソコンを置いていた。こんな時でも仕事をするのか、などとどうでもいいことを一瞬考えて、首を振る。
「向井が会いたがってるってラインしたら昼休みに来るってさ。良かったな」
「お前なんで長濱さんのライン知ってるんだよ」
俺は仕事用の携帯番号しか知らないというのに。
「まずそこかよ」と西野が鼻で笑う。学生時代の、気の短かった頃の俺ならつかみかかっていたところだ。
「新年会の時に交換した。あれ? そういえば向井は来てなかったよな?」
「インフルエンザだったんだよ」
俺が高熱でうなされている間にそんなことが行われていたとは。奥歯がすり減るほど歯ぎしりしても時間は戻らない。そもそもなぜ誰もそのことを俺に教えてくれなかったのか?
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