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午後からは半休の同期達と合流して買い出しとテーブルなどの会場設置がある。去年の花見では意外にばたばたと忙しく、お偉方が到着するまで休む暇がなかったと先輩社員が漏らしていた。それを受けて午前中に交代で仮眠を取り、早めに昼食を取ることにしたのだ。
「もう目が覚めたよ。お前が変なこと言い出すから」
「変なこと? 長濱のことか?」
「他にあるか?」
狼狽する俺を尻目に西野のタイピングは止まらない。気のせいか薄ら笑いを浮かべているように見えて感じが悪い。
「言っとくけど長濱さんに先に目を付けたのは俺だからな、抜け駆けするなよ」
「あーもう」西野は溜め息とともにノートパソコンを乱暴に閉じた。「いい大人が女のことでどんだけぐちぐち言うんだよ。高校生かよ」
いつも冷静、というか何を考えているのかわからない西野が心底イライラしている様子で頭を掻きむしる。その姿が意外すぎて俺は返す言葉に詰まった。
「あと言っとくけどな、先に目を付けたのがお前かどうか知らないけどな、俺の方が長濱のこと好きだからな。お前は愛想が良くて周りからも好かれてるだろ、長濱じゃなくてもいいじゃん。でも俺には長濱しかいないんだよ」
「勝手なこと言ってんじゃねえよ、お前の方こそ仕事できてモテてるだろうが」
勢い余って胸ぐらを掴むと、西野も掴み返してきた。周囲がざわざわし始める。警察を呼ばれるかもしれない。そんなことになったら今日の花見も会社でのポジションも長濱さんへの想いも全て台無しになってしまう。頭ではわかっていても感情がその手を緩めなかった。
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