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ある春の日の事。
優子先生と花壇の手入れをしながら、話が桜の木の話題になった。
ちょうど町には桜が咲き誇り、小学校の通りの桜並木も綺麗に咲いていた。
優子先生は、桜の花がとても好きだといい、私も同じだと言った。
すると、優子先生は持っていたじょうろを地面に置くと、腕時計に目を落とした。
「陽が落ちるまでには戻って来れるかな」
と呟くと、優子先生は私を花見に誘った。
それも、とても穴場でほとんどの人が知らない場所だという。
私は興味津々に頷いた。
その桜の木は、裏山にあるという。
学校の裏には雑木林の小さな山がある。
崖もあり道も悪いらしく、大人の人でもあまり中に入らないという。
学校では子供達だけで、絶対に行ってはいけないと言われていた場所だった。
そんな裏山に、優子先生は私の手を引いて入った。
裏山に入るのは、私も初めてだった。
唯一ある山道は土がでこぼこで、気を抜けば捻ってしまいそうなほど道が悪い。
風がさわさわと木を揺らし、野鳥が叫ぶように鳴いていて無気味だった。
それでも、優子先生は怖くないよ、と二人で歌を唄いながら進んだ。
しばらく歩いたところで、優子先生は山道から反れて茂みに入っていった。
私は迷子にならないように優子先生の手をしっかり握り、優子先生も私の手を強く握ってくれた。
「いい? 危険だから、子供達だけで来ちゃだめよ」
と、優子先生は何度も私に言い聞かせた。
茂みを潜り、小さな川を渡り、小さな崖を上った。
あっという間に、私の手も靴も土まみれになってしまった。
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