優子先生と桜の木

3/9
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
小さな崖を上った先の広場には、背の高い木々に守られるように一本の立派な桜の木が立っていた。 桜の木は満開を迎え、ヒラヒラと雪のように花びらが降っていた。 「ここはね、風が吹いても周りの木が遮ってくれるから、ゆっくりと散っていくのよ。綺麗でしょ?」 私は何度も頷いた。 目の前の桜の花は、町に咲く花よりも色が濃くて美しく見えた。 優子先生は桜の木の下へ歩み寄ると、舞い落ちた花びらを拾いあげた。 その姿は、まるで映画のワンシーンのようだった。 この桜の木の事を、私はまったく知らなかった。 それなのに優子先生は一昨年来たばかりなのに、何故知っているのかと疑問に思い尋ねた。 すると、優子先生は「ある人に去年連れて来てもらったのよ」と頬を赤らめながら言った。 優子先生は恋人に連れて来てもらったのだと思った。 『ここは内緒の場所だから、みんなには秘密よ』 この桜の木の場所を誰にも言わない代わりに、また優子先生が連れて来てくれると約束してくれた。 私は優子先生と秘密の共有が出来た事が何より嬉しかった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!