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「聞こえているよっ!」
「わっ、びっくりした!」
突然に場面が変わる。
そこは居酒屋。
ジャズも流れておらず、照明も無遠慮に照らす大衆酒場。
目の前にいたはずのゆめの姿もなく、目の前にいたのは同僚の鈴木だ。
「起きたか」
「鈴木……ここは?」
僕がキョロキョロと見回している姿に鈴木は大笑いした。
「お前、まだ寝ぼけているのか。お前、酔いつぶれてずっと寝てたんだよ」
「酔って……いや、僕は酔ってなんか……ゆめは?」
「ゆめ?ああ、そうか。夢見てたんだな」
「夢……まさか、あれが全部夢だったってのか?」
まだこの状況を受け入れられない僕に鈴木は少し呆れたように肩をすくめる。
「お前、ビールの後にサワー一杯飲んだところで酔いつぶれて寝ちまったんだよ。気持ち良さそうに眠っていたぜ」
「バカな……じゃあ本当に夢だったのか……」
「まあ、最近残業続きで疲れてるからな。仕方ないだろう。せっかく起きたところで申し訳ないが、そろそろお前を起こして帰ろうかと思ってたところだ。お前が寝ている間、一人でずいぶん飲んだしな」
「そうか……悪かったな」
ようやく現実を受け入れて、僕は鈴木に頭を下げた。
「まあ、いいって。また今度、ゆっくり飲もうぜ」
鈴木は笑って言った。
支払いを済ませ、居酒屋を出て、鈴木と別れて夜の街をぶらつく。
どこかフワフワとした非現実的な感覚。
「もしかして、今が夢の中なんじゃないのか。目覚めたら、いつものように隣にゆめが、寝ているんじゃ……」
そう思うと、そんな気がしてきた。
そうだ。あれほどに濃密でリアルな日々が夢であるはずがない。
きっと今が夢なのだ。
そんなことを考えながら、僕の足はバーへと赴いていた。
重い木製扉を開けると、上品な音量でジャズの音楽が流れていた。
僕は迷わずカウンターへと向かった。
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