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パチリとひとつ瞬きをした途端、ユウナの姿は幻と消えていた。
世界は何も変わらず、長く遠く、陳列された本と、ただ私があるばかり。
腕の中には、あの豪奢な装丁の本。
どうやら、夢を見ることはできたらしいという達成感がある一方で、もっと話をしてみたかったと気落ちした。
まだ読んでいなかった手の中の本を、寝転がったままパラパラとめくる。
森の住人たちが、一本のヤドリギの元を訪れ、去っていく物語だ。
挿絵が多く、森の多様さと命の躍動がうかがえる。
その中ごろに差し掛かったところで、手が止まった。
「木々の翠と、翼――」
そこには確かに、夢の中でユウナが示した絵があった。
贈ってくれた名前が、あった。
過去に読んだことがある本だったろうか――否、私は記憶を忘却しない。
できない。
それが、私の役割だから。
だからわかる。
私は、この本に今初めて出会ったのだ。
だのに、夢の中で先に同じものを目にしたのだ。
ここは、寝ても覚めても変わらない世界。
ただ、ユウナ、あなたがいたことを除いては。
「また、会えるかな」
会いたい。
会って、話がしたい。
本の中の記録ではなく、ユウナが見て、聞いたものを教えて欲しい。
この世界を知らないと言ったユウナ。
それなら、この世界の「外」がきっとあるに違いなく、ユウナはどこからか、そしてどうやってか、「外」からここへやってきたのだ。
昼と夜の境のない世界。
本があれば退屈はしないけれど、私にとっては、夢も現実も、どちらがそうであるのか実に曖昧だ。
だからまた、夢を見よう。
私を眠らせて、そして夢を――ユウナを、現実に、する。
あなたが私の名を呼んでくれるその声を、また聴きたいから。
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