終わりのない世界の中で

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終わりのない世界の中で

 気づいたら、ここにいた。  私が「私」として存在する、最初の記憶。  それすらおそらくは気が遠くなるほど昔のことで、どれほど前のことだったかももう忘れてしまったけれど。  手を伸ばせば、本。  背表紙が厚いもの、薄いもの、鮮やかな彩りや豪奢な装丁の表紙もあれば、単に真っ白な、あるいは黒一色のものもあった。  絵図だけを用いた本はもちろんのこと、あらゆる言語で記されたそれらを、私は当然のように理解し、記憶することができた。  通路を囲い、並ぶ本の群れは、天井に届くほどにひしめき、それが数えるのも億劫なほど幾百幾千もの通路という通路を埋め尽くし、さらには天井など見えないほど高く高く、幾層にも連なっていた。  ひたすらに、本。  膨大な記録の塔の中、それ以外には、何もない。  私以外には、誰もいない。  この世界で、記録の山を余すことなく記憶し続けることが、神様から与えられた私の役割のようだった。  あまりにも――本の内容以外には――変化に乏しい時間の中で、時折、本当は「私」というものなど存在しないのではないか、という疑念が頭をもたげるが、書架から次の一冊を選び取り、ページをめくる手があるのだから、これは「私」なのだと定義していた。
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