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どれほどの間、そうしていただろう。
居心地のよい暗闇に慣れたら、記憶したさまざまな記録が、慌ただしく、賑やかしく、鮮やかに浮かんでは消えていく。
記憶情報の整理もまた、睡眠の機能のひとつだと読んだから、もしかしたら今、私は眠っているのかもしれない。
どうやら眠りを会得したようだと得心して双眸を開くが――そこには見慣れた本の回廊が広がるばかりだ。
「眠れない」
ぽつりと吐き出した言葉が、本の山に吸い込まれて消えていく。
どうやら私はがっかりしているらしい。
目を瞑る前と何も変わらない世界。
ついた手のひらに伝わるのは、ふかふかと毛足の長い絨毯の感触。
灯りは相変わらずどうして点っているのかもわからずぼんやりと淡く光と影を落としている。
どこまでも続く回廊を埋め尽くす、本。
本。
本の山。
腕の中にも一冊――あるはずだった。
本が、ない。
彫金の装丁が豪奢な、分厚い本だった。
それを、抱えていたはずだった。
「なんだか難しい本、読んでるんだねえ」
どうして、と私がつぶやくのと同時に、声が、にわかに降ってきた。
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