妄想乙女と黒のマテリアル

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 花々の香りが街に漂う、麗かな春の日。今はまさに、花盛りの季節だ。木々に留まっている小鳥たちが囀り、沿道には咲きこぼれる花の甘い香りが街を包む。和やかな暖かさにくるまれて、花たちはめいめいに開いては、愛くるしい姿をほころばせている。その一方で──ゆうら、ゆうら……早咲きの桜は散り始めていた。風に揺れる度に薄桃色の花びらが青空に舞う。    春は出会いと別れの季節とはよくいったもので、この春大学生になったばかりの少女……乙めぐみ(おとめぐみ)は、春爛漫の通学路を鼻歌交じりで軽快に歩いていた。  綺麗な桜を目にして、その桜を見た余韻に浸っているのか「はぁ……」と吐息を零す。  めぐみは、この春に運命の人と出会う! と意気込んでいたのだ。  良い出会いはないものかしら?  いいえ、きっとあるはず。 この暖かな春に胸をときめかせる素敵なイケメンとの出会いが。  めぐみの性格は良くいえば、ロマンチスト。別の言い方をすると、妄想オタクだ。
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